[小話]点綴

秘封倶楽部と蓬莱人形考察会

今宵の人里離れた茶屋では、見慣れぬ風貌の者達が集まっては怪しげな物語に関する話が為されている

誰もが見慣れぬ風貌をしており、偏屈者であることを隠す気がまるで感じられない
クロスが掛けられた円卓を囲み、傍目には理解しえぬ話を興じている
話に聞くカルト宗教の集会のようで気味が悪い
悪巧みをしているに違いないのだが、話しかけようという気は微塵も沸いてこない
こういう輩は遠くから見ているに限るのだ
俯瞰してみれば、彼らは一心不乱に小さな紙片を見つめているではないか
目を凝らして見ると、赤く燃えるような背景の中に人形のような少女が一人描かれている
聖書にも似た雰囲気を漂わせる紙片
そこには、”蓬莱人形”と書かれていた

これからこの難解な物語について話し合うとしよう
実に難解な物語だ
各々方の持てる知識を総動員して解明に勤しもうではないか
発案者らしい者が発したその言葉を嚆矢として、答えのない考察会は幕を開けた
「嵐に消える巫女」「U.N.オーエンの正体を訝しむ曲」「ブロンドの少女」
核心に迫る為にはこれらの謎を解かなければならない
共通認識を確認し、全員が首肯を返した
ここまではよかった
しかし、それ以降は考察会という体裁を保ててはいなかった
個人の妄想を垂れ流しては妄想で否定する
稚拙な与太話が今もなお続いている

巫女の「無慈悲で過激な舞」は弾幕ごっこであり、
巫女が博麗の巫女を指すのであれば雨という表現は弾幕を意味しているはずだ

巫女の日記には「平和な夏を送っていた」とあるではないか

ならば巫女は博麗の巫女を指す言葉であるはずがない

雨が弾幕の隠喩的表現であるはずがない

とまあこんな様子で議論は進展する兆しを見せぬまま時間だけが過ぎ去っていく


考察会の参加条件として明示されていた物品二つ
どちらにも共通しているのは
 蓬莱人形 というタイトル

一般商業流通している代物ではないから思いのほか入手に手間取ってしまった

でも一組だけじゃあ二人同時の参加は無理ね

「この度は八人もの参加者に集まっていただき、、、」

もともとこの考察会には期待していない
この不穏な物語には無数の噂が立っていたが、どれも信憑性に欠けるものばかり
真意の検証が今回の目的であるが、この主催者を見る限りではそれも叶いそうにはない

・最も美しいボクについて

最も美しいボクが少女であると仮定すると、
ボクは美しきピエロであり、同時にブロンドの巫女でもあるはずだ
ここで最も早起きな僕の発言から、二色の巫女とブロンドの巫女の容姿が酷似していることが判る
ではなぜ両者は酷似していたのだろうか
この疑問に対する答えは二通りが考えられる

一、二色の巫女がいた場には、最も美しいボクもいたに違いない

最も早起きな僕が巫女に見惚れていたことを知ったうえであえて巫女に似た服装を用意していた

二、二色の巫女は最も美しいボクの関係者、もしくはボクと二色の巫女が同一人物である

そんな思考に至るのは登場キャラクターの人数を固定して考えてしまっているからだ
例えば、ピエロや巫女が何人いたのか、、、

皆が皆、自分の考えに固執し、際限なく理論を飛躍させてしまっている
そのせいで話の繋がりが一向に見えてこない
憶測が憶測を呼び、もう考察とは呼べなくなった妄想は肥大化の一途を辿り、止まるところを知らない

「登場キャラクターと彼らの役回りは把握できましたか」

そう言いながら人形を円卓に配置を始める者が一人
ボードゲームでもしているように思うに違いない光景が広がっていた
馬鹿馬鹿しい発案だと思っていたが錯覚か、手品か、卓上の人形達は自ずと踊りだしたのだ

このストーリーは正直者が減っていくレトロラブよ

なのに今までの話に嘘も愛も出てきていないじゃない
まったく、蓮子は何について話し合っていたのかしら
得意気に話をする割に、大切なことを見逃しているのね
物語の考察だったら、きっと私の方がもっと良い答えを導き出せたわ

巫女は複数人いた
そうすると聡明な皆様方ならこの発想に至ることでしょう
先ほど出た巫女の舞と雨が弾幕ごっこの表現という仮定が正しいならば、
嵐に消えたピエロは巫女との対戦相手だったはずだ
ならばピエロの正体は当然ながら妖怪
物語の序盤で蓬莱の玉の枝を渡された最も好奇心の高い僕が何らかの経緯で妖怪になった、と

確かに思い付きはしました
が、本当に正直村の面々が妖怪になったと言うのですか
それでは最も好奇心の高い僕が動く事も喋る事も出来なくなったという事実に反してしまうではないか

ええ、だから「正直者」が減っていくのです
あなたも判ってはいるのでしょう

まさか、そんなことって

いいや、待ってくれ

他の僕らはどうなったというんだ

蓬莱人形と発売時期がぴたりと重なる作品があったでしょう
それと関連性を見出してみるのはいかがでしょうか
池の上で二色の巫女と舞った妖怪はルーミアだとか

紅魔郷と結びつけるなんて、それこそ無茶な仮定だ


七人しかいないじゃないか
蓬莱人形とは人数が噛み合っていない
そのことをどう説明するつもりですか

最後の一人、美しいブロンドの少女は楽園から姿を消したのですよ

楽園から姿を消しただって
まさか、冴月麟とでも言うつもりですか
蓬莱人形は、阿片に蝕まれた洋館の蓬莱への移住を目論んだ夢物語だ
その仮説はいくら何でも矛盾点が多すぎる
あの館の正体が紅魔館だったと言いたいのですか

彼らは森の奥に館を見つけたのです
館と一緒に蓬莱の地へと来たわけではない

森には他の館もあるじゃないか

・謎のピエロについて

楽園へと至った後、
最も好奇心の高い僕は謎のピエロと遭遇しているが
このピエロの正体が正直村の面々であったはずがない
人間である限り、最も好奇心の高い僕を先回りすることなど不可能だ
であるならば、謎ピエロの正体という疑問に対する答えは、
先と同じく二通りが考えられる

一、
物語の冒頭で正直村の誰かが「さっそく人間をやめた」という描写がある

その存在こそが謎のピエロであり、特定することで物語の真相に繋がる

二、
謎のピエロの正体は幻想郷にいた何者か

最も臆病な僕は「もう一度だけ人間の真似をしてみることにしよう」という独白をしている
だから人間をやめたのは最も臆病な僕だったはずだ
最も臆病な僕が不吉なピエロだったと仮定すると
もう一度人間の真似をし始めてから犯行に及ぶまでの期間があまりにも短すぎる
しかしながら、最も臆病な僕が不吉なピエロであったとすれば、人間をやめていた期間とも合致する
同時に謎のピエロの正体は幻想世界にいた何者かであることが判る
蓬莱の玉の枝は幻想世界を象徴する物品であると示唆されていることになる

最も臆病な僕が真っ先に人間をやめたというのはおかしくないですか
本当に臆病であるならば、変化を拒み人間であろうとしたはずだ
ということは、本人の意思による行いである可能性が極めて低いのではないでしょうか
つまり何者かによってピエロへと仕立てられたというわけだ
物語の終盤、最も早起きな僕に疑われていたのは、気違いになった最も臆病な僕だった
そして最も臆病な僕はその夜の出来事を一切覚えていない
つまり、夕食から翌朝に至るまでの間は最も臆病な僕ではなく、不吉なピエロとして活動していたんだ
「そういうことなのだろう」と独り言ちに納得しているのがその証拠だ
最も臆病な僕としての自我を保てていた最後の記憶、それが珈琲で死んだ奴だった
昨夜のうちに死んでいる二人と、何にも思い出せない自分自身
首をはねられたことが嫌に強調されているからには、自らの手で殺してしまったに違いない
最も臆病な僕は、やはり人間の真似など出来ないと察して、首を吊ったのかもしれないな

「いかがでしょうか」

唖然とした。
別の世界をのぞき込んでいるような感覚に陥っていた蓮子には
先ほどまでの考察が何にも思い出せない。
夢現といった面持ちの中で目を開いた。
すると卓上にあったはずの人形が消えていることに気が付いた。

「結論は出ました。ちょうどこの場に八人いることですし、私が疑似的に再現して見せましょう」

荒唐無稽で他愛無い。
それでいて青天の霹靂と呼ぶべき考察だった、
これまでの全てを否定しているはずなのに、なぜか反論の余地が一切無い。

誰もが口を閉じ、静謐彼女の言葉のままに引き込まれていった。

その晩、○○から八人が忽然と姿を消した。

店主は後にこう語る。

「店内にいた客は八人だけだったはずだ。
それなのに店から出て行ったのは一人だけ。
それも見覚えのない女性だった。
豊かな金髪の少女だった」
と。

「じゃあ蓮子はどうしてここにいるの?」

いつもの活動とは違うものに首を突っ込むから不思議に思っていたのだけれど、
その疑問はすぐに消えたわ。

「ねぇ、メリー。蓬莱山に登らない?」

この本は東方projectの二次創作作品です

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